B:殺戮の戦争屋 ウォーモンガー
エンセラダス魔導工廠で開発された、次世代型自律制御式魔導兵器「ウォーモンガー」……。
人の意思を介さず、敵対者を殺戮する、まさに戦争屋だ。こと機械技術にかけては、ガレマール帝国は、我が魔法大学より、一歩も二歩も先に進んでいるからな。ぜひとも実物を手にとって研究したい。とはいえ、相手は無慈悲な殺人機械だ。
さすがの君でも、稼働状態の品を手に入れるのは難しかろう撃破し、その部品を持ってくるだけで構わないとのことだ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
魔導技術に於いては世界でも群を抜いた存在であるガレマール帝国にあって、圧倒的な技術力で他を寄せ付けない存在として業界に君臨してきた、それがエンセラダス魔導工廠だ。
魔導技術の革新、魔導技術の軍事導入により名を上げた初代皇帝ソル帝の肝入り企業として業界を扇動してきたが西州エオルゼアへの侵攻の失敗、後ろ盾であるソル帝の崩御と立て続けに続いた逆風に企業の信用は傾き苦境に立たされていた。上層部からは一発逆転を狙えるような魔導兵器の開発を強要され、もう何カ月も家にすら帰っていない。
そもそもガレマール帝国が魔導技術において世界をリードできているのは、他国が魔導技術をそれほど必要としていないからだ。ガレマール帝国の9割以上を占めるガレアン人はその体質として体内のエーテルを変化させ体外に放出する能力が欠如している。そのため魔法が使えないガレマールは遥か昔から周辺国より軍事的に一歩も二歩も遅れをとってきた。それを一気に解決に導いたのが魔導技術だ。
ソル帝がどうやってこの魔導技術を編み出したのか、何故それほどの技術を持っていたのかは分からないが、彼のその能力が一時とはいえガレマールを世界にその名を轟かせこの国を救ったことは間違いのない事実だ。その後、帝政を敷き、覇権国家として世界に脅威を与えた事の功罪は様々なのだろうが…。
とにかく今この国は置かれた状況を一変させるような画期的な何かを探し求めている。
昨日も私は上司に呼ばれ会議室へと出向いた。開発の進捗を報告するためだ。呼ばれた部屋に入ると中には上司と社長の他にガレマール軍の幹部を名乗る男が2人いた。私は彼らに開発の進捗が思わしくない事を2時間余り激しく叱責された。
私が取り組んでいるのは「次世代型自律制御式魔導兵器」の開発だ。今まででも自立制御式の魔導兵器は存在するが、基本的には目標の攻撃や防衛のための巡回と言った単純作業しかできない上に、故障やエラーも多くその運用について問題視されてきた。その問題を全て解決し、尚且つ独自に状況判断して作戦行動がとれ、さらに目的達成の為に次の作戦行動まで判断し行動できるほどの知能を搭載した自立制御式魔導兵器の開発を政府から求められているのだ。無茶にもほどがあるが、そのくらい画期的な開発をなさないと状況を好転できない程この国は追い込まれているという事なのか。
とにかく、軍幹部の激昂ぶりからして私に残された時間はあと僅かだった。
私がもっともてこずっていたのは人工知能の部分だった。周囲の情報を集め、状況を分析し、次の行動を検討し、立案・行動する。これを高精度で行える人工知能の開発がどうしてもできなかった。逆に問題はその一点と言っても過言ではない。そして私は決断した。この人工知能に、自らの脳を使用する事を。
どうせ出来ない研究を続けても国家的プロジェクト失敗の責任を独りで負わされ処刑されて終わるのだ。どうせ終わる人生ならば自らの画期的開発の一部になるのも悪くはない。
今思えば軽率極まりない感情的な行動だったが、私は信頼のおける助手や同僚たちに全てを指示し、委ねてて二度と目覚めることはないかもしれない冷凍睡眠の深い闇へと入った。
幸か不幸か、この試みは成功に終わった。私は機械の体を持つ魔導兵器となった。
不思議な感覚だが周囲の人間を上から見下ろす気分は悪くない。暗い部屋で目の前に置かれたモニターを無感情にじっと見ている感覚に近く、感覚も痛覚もないからかそのモニターに映る人や景色を現実のものとは思えなかった。目に映るものすべてに対する生殺与奪を握っているような妙な万能感を感じた。
その後、試験運用日直前に死んだはずの皇太子により現皇帝ヴァリス帝が暗殺され、ガレマール帝国は帝位をめぐる激しい内戦が勃発した。こうして私の初陣は同胞殺しとなった。機械の体は冷酷に同胞を殺し続けた。人の体とはかくも脆いものなのか、私は私の体に襲われ命を落として行く同胞を、瞼のない目で見せられ続けた。どのくらいの時間が経ったのか。意識を失っていたのか?いや、意識はあったようだが、記憶がはっきりしない。記憶も思考も混濁していた。
それからさらに時は経った。私は見るも無残に焼き野原となったガレマルドをなすべきこともなく彷徨っていた。私はこの先、永遠にこの動く鉄の棺桶の中で無感情にモニターを見続けるのだ。
「これが永遠に続くのか?まさに地獄じゃないか!誰か、誰か殺してくれ!」
もうすっかり委縮して小さくなった感情が往生際悪く叫びながら藻掻いているような気がした。
さらにどのくらいの年月が経ったのだろう。雪原の先を動く人影にセンサーが反応して私は久しぶりにはっきりとした意識を持った。モニターがまっすぐ腰らに向かってくる人影をズームアップする。
一人はヒューランの剣士、一人はミコッテのキャスターのようだが、戦闘慣れした様子が見て取れる。久しく消えていた私の自我が声を上げた。
「殺してくれ!殺してくれ!殺してくれ!」